言葉からみる「ダイカスト金型」
ダイカスト金型、あるいは、ダイキャスト金型――はじめて耳にする方もいるかもしれませんね――英語ではDie-Casting Moldといいます。
Dieは、Dice(=サイコロ)の単数形で、《四角いもの》という語義。ここから転じて、型枠のような「型」のことをダイと呼ぶようになりました。Castは、「放り込む」「割り当てる」「流し込む」といった意味です。ドラマの出演者に役柄を割り当てることを「キャスティング」といいますよね。MoldもDieと同じく「型」。
つまり、Die《型》+Cast《流し込む》+Mold《型》で、直訳すれば「流し込む型の型」。ちょっと変な名前です。
変な名前のダイカスト金型ですが、今日の製造業には、なくてはならないものです。ダイカスト金型なしでは、自動車や電気製品、生活必需品などの「もの」を大量生産することはできません。
早速、そのダイカスト金型の説明したいところなのですが、その前に、少しだけ「金型」の説明をさせてください。

金型とは … 金型は何種類あるの?
金型とは文字通り「金属でできた型」のことです。金型にはいろいろな種類のものがありますが、どれも、その金型よりも柔らかい素材を加工して成型するために使われます。
高温で熱して柔らかくなったガラスを加工してガラス瓶をつくる硝子金型、プラスチックを加工して食品トレーやペットボトルをつくる樹脂金型、溶けたアルミを加工して自動車部品をつくる金属金型などです。変わったところではバレンタイン用のチョコレートをつくる食品金型もあります。クッキーの型抜きも食品金型の例といえるかもしれません。
加工法にもいろいろな方法があります。素材を加熱し液状化させたものを金型へ流し込んで固める 鋳造、素材を金型で叩いて成型する鍛造、素材に金型を押し付けて加工するプレスなどが代表的な加工法です。

さらに、成型される形状には、ハートマーク、花柄、パイプといった比較的単純な形状から、家電製品の筐体、機械部品、自動車エンジンのブロックというような立体的に入り組んだものまであります。
このように、金型と言っても、素材、加工法、成型される形状の組み合わせによって無限といっても過言ではないほどの種類があります。
溶けたチョコレートを固めてバレンタインの贈り物をつくるためには《ハートのチョコレート鋳造金型》が必要ですし、ロボットのプラモデルを作るには《ロボット部品のプラスチック鋳造金型》、チタンを叩いてゴルフヘッドをつくるのは《ゴルフヘッドのチタン鍛造金型》、アルミ板をプレスして灰皿をつくるのは《灰皿のアルミプレス金型》という具合に、すべて別々の種類の金型が必要になります。
素材(ガラス、プラスチック、アルミ、食品…)
×
加工法(鋳造、鍛造、プレス…)
×
成型形状(ハートマーク、ゴルフヘッド、灰皿…)
↓
無限の組み合わせがあります

ダイカスト金型の基本
ここからは本題のダイカスト金型の説明です。
ダイカスト金型とは、金属を成型するために、鋳造法※を発展させた「ダイカスト法」という加工法のための金型です。
※鋳造(ちゅうぞう) → 加熱して液状化させた素材を金型に流し込むこと
ダイカスト金型に流し込む素材は、アルミや亜鉛、マグネシウム、真鍮(しんちゅう、銅と亜鉛の合金)といった比較的融点の低い金属です。これらの金属を加熱し、完全に液体化したもの(これを「溶湯(ようとう)」「融湯(ようゆ)」あるいは単に「湯(ゆ)」と呼びます)を金型内に注入します。


- 数百トンという大きな力で、固定型と可動型を押し合わせます。
- 数十メガパスカルという高圧で、湯(融解したアルミなど)を注入します。
ダイカスト金型自体は、固定盤に取り付ける固定型と可動盤に取り付ける可動型の2つでできています。この2つの型のあいだの隙間に何十メガパスカルという高圧で湯を注入します。隙間から湯が噴き出さないようにするために2つの型は何百トンもの力で押し合わせた状態にします。湯が冷えて固まれば、押し合せを解除して、金型から成型物を取り出します。
固定型と可動型の押し合せの力が弱かったり、金型が歪んでいたりすると、接合面にまで湯が入り込み、「バリ」と呼ばれる不要な突起ができてしまうことがあります。
このバリは外科手術に使うメスかのように鋭利で、うっかり指で触れると切れてしまうほどです。
バリができてしまうと「バリ取り」という作業をしなくてはなりません。なるべくバリのできない精度の高いダイカスト金型を作ることが大切です。
湯を注入すると中の空気はどうなるのかと疑問に思われるかもしれません。上記の動画には描かれていませんが、エア抜き(エアベント)と呼ばれる穴があり、そこから空気を抜きます。事前に真空ポンプで内部を減圧しておく真空鋳造という手法もあります。いずれにせよ、空気が残ると成形物に空洞※ができてしまい、不良品となってしまいます。
※この空洞のことを「鋳巣(いす)」あるいは単に「巣(す)」と呼びます。
入子と主型
固定型と可動型に大別させるダイカスト金型ですが、これがさらにそれぞれ入子と主型に分かれます。固定型の入子と主型、可動型の入子と主型の4つです。
入子はモノを形作るものであり、主型は入子を固定するという役割を担っています。役割が異なることから材料も異なります。入子にはHRC45〜50の硬度に優れた熱間工具鋼を使用する一方、主型はHRC40前後の炭素鋼や鋳鉄などを使用しています。
また入子に対しては、硬度を上げるために、加工作業の前後に焼き入れなどの熱処理が欠かせません。
※HRCとは 硬さの表示方法のひとつ。数値が大きいほど硬いことを表します。Wikipedia

重力鋳造との違い
圧力をかけずに湯を流し込むだけの鋳造――重力鋳造ともいいます――と比較すると、圧力をかけるダイカスト法は、金型内のよりこまかな部分まで湯を行きわたらせることができます。これにより重力鋳造よりも、肉厚※が薄く、複雑な形状の成型物を作り出すことができるのです。
※肉厚(にくあつ)とは、アルミなどの素材の厚さのことです。薄くすることで成型物を軽量にすることができます。またこのことは、原材料の使用量を減らすという意味もあります。
しかし、いくら融点が低いとはいえ数百度もある湯に数十メガパスカルという高圧をかけるのですから、負荷は半端なものではありません。とにかくダイカスト金型は丈夫で熱に強いことが求められます。このため、ダイカスト金型自体は、既に述べたように熱間工具鋼や炭素鋼、鋳鉄といった耐熱性や強度、粘りに優れた鉄をベースとした合金でできています。
フジイ金型のようなダイカスト金型メーカーは、大きな合金の塊を用意し、マシニングセンタと呼ばれる専用の機械で切削していきます。とはいえ、丈夫な合金ですので切削も容易ではありません。何日もかけて削り出していきます。間違えて削りすぎると修正はできません。精度も要求されます。そのためか、ダイカスト金型の技術者は、彫刻家のような寡黙で繊細さをあわせ持った人が多いようです。
とにかく、こうして作り出されたダイカスト金型は、ダイカストメーカーのダイカストマシンと呼ばれる機械に設置され、生成物の大量生産に使われています。
特に日本の基幹産業のひとつである自動車産業では、燃費改善の必要性から軽量な材質で肉厚も薄く強度や耐熱性にすぐれ、しかも低コストで生産可能な部品を大量に求めています。この要求を満たす素材がアルミであり、ダイカスト金型で作られたアルミ部品なのです。


DMG森精機 NVX5100
ダイカスト金型をダイキャスト金型と呼ぶことがあります。
これはCastを「カスト」と呼ぶか「キャスト」と呼ぶかという発音の違いだけで、実体は同じものです。インターネットでいろいろ調べてみると、2018年現在では「ダイカスト」がやや優勢のようです。Wikipediaでも「ダイカスト」という表記をとっています。
では今後「ダイカスト/ダイキャスト」の表記はどうなるでしょうか。予想では「ダイカスト」に収れんしていくと考えています。
外来語は、当初は「キャスト」のように原音に近く発音されます。日本語として定着するにつれアクセントにメリハリがなくなり、やがて短くなる傾向にあります。「ダイアモンド(Diamond)」が「ダイヤモンド」になり、「ダイヤ」になった例がそれです。